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日本学術振興会科学研究費 基盤研究(B)

超高齢化住宅地の持続的再生に向けた

福祉転用マネジメントの有効性

に関する実証的研究

 

 

 

 

森 一彦 (大阪市立大学 大学院生活科学研究科 教授) 

大原 一興 (横浜国立大学 大学院都市イノベーション研究院 教授)

斉藤 広子 (横浜市立大学国際総合科学部(八景キャンパス) 教授) 

加藤 悠介 (金城学院大学生活環境学部 准教授) 

鵜川 重和 (大阪市立大学大学院生活科学研究科 准教授) 

李 鎔根 (東京大学大学院工学系研究科(工学部) 助教)

杉山 正晃 (大阪市立大学大学院生活科学研究科 客員研究員) 

 

【概要】

国際的に都市の超高齢化(定義65+, >21%)が進行し、持続的な再生と新たな計画手法が模索される中で、空き家など活用されない地域資源を、増加する福祉ニーズに活用する「福祉転用」の事業が注目されている1)。高齢者のみならず子育てや障害者支援など多様な生活福祉活動拠点(以下、福祉拠点)2)を福祉転用によって整備し、高齢者と次世代が共に住む持続的再生の仕組みが生まれることが期待される。一方で、福祉転用は所有者や事業者、居住者、専門職など関係者が複雑で、その合意形成および社会的普及にはエビデンスに基づくマネジメントが不可欠となっている。本研究は協議調整型の仕組みとして、福祉転用マネジメントの概念を導入し、その有効性を実証的に明らかにする。高齢化状況・地域特性の異なる住宅地について、多次元の住宅・近隣・移動・環境・健康・つながり・参加からなる「リバビリティ(居住性能)」指標3)から評価し、地域間比較の横断分析と、福祉転用マネジメントの介入による経年的変容の縦断分析を実施し、様々な超高齢化住宅地に応じた有効な福祉転用マネジメントのあり方を総合的に分析する。

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1 研究目的、研究方法など

(1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」

■学術的背景:

国土交通省の調査4)によれば、全国の556市区町村に2,886の住宅団地があり、その1/3、約960が30年以上経過した住宅地である。その半数が超高齢化住宅地(高齢化率25%以上)であり、大きな社会課題となっている。この傾向は、中国、オーストラリアなど急速な住宅地開発をした国々にも広がり、国際的な共通課題である。都市化に伴って、通勤圏にある緑豊かな郊外に、子育て家族向けの住宅が大量整備された社会現象の結果である。30年以上経つと超高齢化住宅地が出現し、空き家の増加や居場所の減少、生活不安、買い物難民や要介護者の増加、健康状態や活動量低下、人的交流やつながりの縮小など様々な問題が発生し、住宅地の居住性能、いわゆる「リバビリティ」が低下していく。その改善には、高齢者の支援に留まらず、次世代が移り住み、多世代が共生するための継続的再生の仕組みが求められている。

■学術的「問い」

我々は、この持続的再生の課題に向けて、空き家など活用されていない地域資源を福祉的に活用する福祉転用に着目し、研究および地域実践的に関わっている。福祉転用の全国調査1)から、福祉転用によって地域の拠点が再生され、人のつながりや安心感向上、外出のきっかけや活動量の増加、結果的に高齢者の健康増進や子育て世帯の転入につながる事例があることを明らかにした。このような背景のもと、社会的普及に向けた学術的「問い」として「福祉転用マネジメントが超高齢化住宅地のリバビリティ向上に寄与する」ことを実証的に明らかにしたい。

(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性

■本研究の目的:

本研究は、住宅地における高齢化の状況と地域特性およびリバビリティの相互関係について、地域間比較の横断分析、および福祉転用マネジメントの介入による経年的変容の縦断分析を行い、様々な超高齢化住宅地に応じた有効な福祉転用マネジメントのあり方を総合的に分析する。

■学術的独自性と創造性:

本研究の学術的独自性は、超高齢化住宅の持続的再生に向けて「福祉転用マネジメント」という概念を導入する点にある。福祉転用マネジメントは、地域の活用されない空き家を活用して、地域の福祉ニーズに対応して居場所・カフェ・レストラン・デイサービス・ショートステイ・介護施設・リハビリ施設など多様な福祉拠点を展開する事業で、空き家の所有者、事業者と利用者、さらには近隣の居住者や自治会、行政など多種の関係者の理解のもと実施される「協議調整型の仕組み」である。本研究では、この仕組みの解明に向けて、大学研究室が福祉転用マネジメントの活動に介入し、調査・評価、計画・提案、実施・調整、管理・運営までの詳細な活動の記録や関係者アンケートを行い、そこで検討された課題と具体的な対応のプロセスを調査・分析する。

本研究の創造性は、国際的なリバビリティ指標3)に基づく横断調査・縦断調査から福祉転用マネジメントの有効性を評価する点にある。リバビリティ指標は「住宅・近隣・移動・環境・健康・つながり・参加の7つのカテゴリー」からなる公衆衛生学的な指標であり、米国・オーストラリア・欧州など広く活用されている。本研究において、我が国が抱える超高齢化住宅地の課題にリバビリティ指標を適用することで、その成果を国際的に展開することができる。

 

■対象地域の高齢化状況と地域特性

 国内・海外に広がる多くの超高齢化住宅地の中で、規模的・数量的にも大きい課題を抱えている数百万人規模の大都市圏にある住宅地を対象とした。今回対象とする鎌倉市(東京圏)・日進市(名古屋圏)・堺市(大阪圏)・上海市・メルボルン近郊の住宅地は、都市周辺部に位置する4000〜5000人の同規模のエリアで、居住者間で高齢化問題が認知され各種の試みが始まっている先導的地域で、大学研究室との連携や行政の支援など実証研究の条件を備えている。

A住宅地:鎌倉市今泉台地区(東京圏)は、開発から50年経つ、東京から約60kmの鎌倉市の郊外丘陵地にある戸建て住宅だけの住宅地という特徴がある。現在約2000戸、約5000人、高齢化率は約45%、最多年齢層は70代後半となっている。2012年より横浜国立大学では産官民学の長寿社会プロジェクトに加わり、地域をマネジメントすることを目的に町内会を中心としたNPOを発足させ、空き家を活用してまちのサロンやディサービスなどの福祉拠点を整備している。

B住宅地:日進市五色園地区(名古屋圏)は、開発から48年経つ、名古屋から25kmの日進市近郊の住宅団地である。現在は4000人ほどが居住し、高齢化率は35%を超えている。傾斜地のため買い物難民などの問題が顕在化し、行政支援を受けながら地域のマネジメント組織を立ち上げ準備が始まり、すでに、空き店舗を転用した障害者就労支援施設など転用事例もある。

C住宅地:堺市槇塚台地区(大阪圏)は、開発から50年経つ、大阪から35kmの丘陵地にある泉北ニュータウンの中の住宅地で、公営住宅と戸建て住宅との混合に特徴がある。高齢化率は30%を超え、人口7000人から5000人に減少している。2009年より大阪市立大学が参画する地域協議会を組織し、公営住宅の空き室、近隣センターの空き店舗、戸建ての空き家を高齢者支援住宅やディサービス、障害者グループホーム、地域レストランなどの福祉的活用を進めている。

D 住宅地:上海市四平地区は、開発から60年近く経つ、内環状線の中に位置する、6階以下の住宅地である。2016年末まで、高齢者率は31%を超え、住宅老朽化も深刻になっている。近年、住み続けるまちを目指し、住区環境の整備や住宅の改修と小規模高齢者介護施設の改修が進んでいる。高齢者をはじめ、歩きやすいまちになりつつある。行政・運営会社・大学・高齢者と協議しながら、元の町工場がデーサービス施設に転用され、参加型の改修に至ったケースも現れた。

E住宅地:メルボルン近郊モーニントン地区は、モーニントン郡はメルボルンの郊外にある地域で、ヴィクトリア州において最も高齢化が進んでいる地域のひとつである。退職者の移住等により高齢者の人口増加が進んでおり、65歳以上の高齢者の割合は2016年現在25%となっている(メルボルン全域:14%)。この地域の問題は人口密度が低いことから、高齢者に必要なサービスが近隣に存在しないという点にある。

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1)    福祉転用による建築・地域のリノベーション、森一彦・加藤悠介・大原一興他、学芸出版、2018/03

2)    空き家活用による住民福祉活動拠点に関する研究 : 地区社会福祉協議会に関する全国調査から、中村 美安子, 大原 一興, 藤岡 泰寛、 神奈川県立保健福祉大学誌  15巻 1号 (頁 29-37)  2018/03

3)    Livability and Subjective Well-Being Across European Cities, Adam Okulicz-Kozaryn1, Rubia R. Valente, Applied Research Quality Life, 2018/01

4)    住宅団地の実態調査、国土交通省住宅団地の再生のあり方に関する検討会資料、2018/02

5)    北野綾乃,山田あすか,浅川巡,横手義洋,古賀誉章 : 自治体所管部署へのアンケート調査に基づく福祉転用の実態と転用への評価の把握, 日本建築学会計画系論文集第83巻, 第752号, 201810

6)    イギリスにおける既存ストック活用事例とその特徴-空き家・空きビルの福祉転用研究 その 8-、加藤悠介・三浦研・小見山陽介・森 一彦・松原茂樹・北後 明彦・大原一興、地域施設計画研究35号 (頁 33-40)  2017/07

7)    ソーシャル イノベーション:社会福祉法人佛子園が「ごちゃまぜ」で挑む地方創生!、雄谷良成(監修)・竹本鉄雄(編著)、ダイヤモンド社、2018/09

8)    戸建て住宅地開発におけるエリアマネジメント導入のプロセスと課題、住民の評価、齊藤広子、都市計画   53(1) 57-66   2018/

 

 
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